最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
 そっと下ろされ貴治さんを見ると、彼はさっそくネクタイをはずしジャケットを脱ぎ始めていた。思わず視線を逸らし、私はバスルームで着替えようとガウンをクローゼットから出そうとする。

 しかし、ある事実に気づく。

「貴治さん」

「どうした?」

 上半身はシャツだけになった彼に、ドキッとする。けれどそれを顔には出さず、極力平静を務める。

「ドレスを脱がすの……手伝ってもらえますか?」

 目を瞠る彼に、慌てて補足する。

「へ、変な意味ではないです。このドレス、うしろにホックとファスナーがあって、着たときはお母さんやお店のスタッフさんがいましたから……」

「わかった」

 しどろもどろに説明する私に、貴治さんは近づいてきた。

「貴治さん、あの、今さらですが本当にラウンジに飲みに行かなくていいんですか?」

 末永さんとふたりだと誤解してしまったが、彼が前回のパーティーの後にラウンジに顔を出した理由を考えると、今日は行かなくてもかまわないのだろうか。

「私は大丈夫なので――」

「俺は臨といたい」

 貴治さんは迷いなく言った。じっと彼を見つめていたら、貴治さんは小さくため息をついた。

「臨は違うのか? 臨がどうしても行った方がいいというなら考えるが――」

「行ってほしくないです」

 今度は私が貴治さんの言葉にかぶせて告げた。
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