最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
 貴治さんの……二神不動産の次期社長の妻としては、ここは行くように勧めるべきだ。私の気持ちなんて、この結婚には最初からいらない。それなのに……。

「一緒にいて……くれますか?」

 打って変わって、おずおずと尋ねる。

「臨が望むのなら」

 彼は私の背後に回ると、器用にホックをはずし、ゆっくりとファスナーを下ろしていく。

 ドレス用のインナーを着ているとはいえ、肌が空気にさらされるのと貴治さんに見られている羞恥心で、ある程度でかまわないと彼を止めようとした。

 彼の方に振り向くと、そのまま背後から貴治さんに抱きしめられる。

「臨」

 まるで大事なものみたいに耳もとで名前を呼ばれ、胸が締めつけられる。

 一緒にいたいとお互い口にしたものの、それが本当にただ一緒にいるだけなのか、ほかの意味を持つのかわからない。けれど貴治さんを想う気持ちは本物だ。

 うしろに首を傾げると、貴治さんと目が合う。いつもは冷たくて厳しそうに感じる眼差しが、今はどこか熱を孕んでいるみたいだ。

 お互いなにも声にせず、私たちはどちらからともなく唇を重ねた。

 たっぷり口づけを交わした後、彼の手がドレスにかかり脱がされていく。その間、首筋や背中などあちこちに口づけを落とされて、恥ずかしさと緊張で倒れそうだ。

 このままどうなるのだろうかと不安と、もっとしてほしいという気持ちがせめぎ合い、身動きが取れなくなる。

 貴治さんは空いた方の手で、私の脇腹や腰回りを優しく撫でていく。
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