最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
 (にしき)食品株式会社は、その名を知らない人はいないほど大手企業だ。私はここの第一事業部に所属している。主な仕事は製品に関するデータ入力や、他社と自社を比較したデータをもとにした営業資料作成など日々数字と向き合っていた。

 地味な作業ではあるが、数字ひとつ間違うと社内外に大きな影響を及ぼす。大事な仕事だと思っている。

 名の知れた会社を選んだのは、祖母に恩返しをしたかったのと、祖母を喜ばせたかったからだ。少しでも自慢の孫でいたかった。

 そこでふとキーボードを打つ手を止めた。ここに就職が決まったときの祖母の顔を思い出す。今ならわかる。私がどこに就職しても、祖母はきっと喜んで、応援してくれただろう。

『臨ちゃんの会社が作っているんでしょ?』

 スーパーで錦食品の出しているお菓子を見つけたと祖母は嬉しそうに見せてくれた。

 ああ、だめだ。会社で感傷的になっている場合じゃない。しっかりしないと。

 必死に頭を切り替え、午後の業務に集中した。
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