最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
 軽くため息を漏らし、頭を振る。

 シャワー、浴びよう。その前に貴治さんとは、どんな顔をして会えば……。

 考えれば考えるほど、頬が熱を帯びて息が苦しくなる。いつまでもそのままではいられず、心を必死に落ち着かせ、意を決してリビングに向かう。しかしそこには貴治さんの姿はなかった。

 さっきまでは会うのが怖かったのに、彼の姿が見えないと途端に不安になる。

 シャワーを浴びている?

 けれどバスルームに誰かいる気配はない。私は広いリビングをうろうろと歩いた。

 仕事? もしかして私と顔を合わせるのが嫌で……。

 どんどん悪い方へと思考が引っ張られる。そのとき、玄関の方で貴治さんの声が聞こえ、私は駆け寄った。

 電話でもしているのかな?

 念のため、そっと近づくと、貴治さんの声だけではなく、女性の声も聞こえる。

「やめろ。臨には手を出していない。出せるわけないだろ」

 苛立ちを含んだ貴治さんの声に、肩を震わせる。そして話している内容に頭が真っ白になった。

 どうして私の名前が? 手を出すって……。

「あら、夫婦なのに?」

 続けて、からかうような口調の女性の声が聞こえ、相手が誰だかすぐにわかった。この部屋を訪れているのは、末永真帆さんだ。

 それで、ふたりはなんの話をしているの?

 声を押し殺す代わりに、心臓がバクバクと激しく鳴り響く。
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