最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
「酒も入っていた。普通じゃなかったんだ」

「へー。一夜の過ちくらい、いいじゃない。あ、でも奥さんみたいな人は一度寝たら本気になっちゃいそうだものね」

 小馬鹿にしたような笑い声は、以前も聞いた。昨日、お酒に酔ってしまった私に対してもそうだった。もっと言うなら、雨の日に貴治さんを迎えに行ったときも。彼女は最初から私を見下している。

 これ以上、ふたりの話を聞いていたくない。それなのに足が縫い付けられたように、この馬鹿が動けない。

「で、用件はなんだ? 会社に関する急ぎの件だと聞いたから開けたんだ。さっさとしてくれ」

 貴治さんがため息をついたのが伝わってくる。

「ええ。私ね、改めて佐和子さんに貴治さんとの結婚を推してもらえるよう、お願いしようと思っているの」

 まさかの内容に、目を見開く。

「どちらが未来の社長夫人にふさわしいか、佐和子さんはわかっているはずだもの」

 おそらく末永さんにとって貴治さんが結婚しているかどうか――ましてや相手が私なら、関係ないと思っているのだろう。

 貴治さんは、なんて答えるの?

 馬鹿らしい?って一蹴する。 少なくとも今は、私と結婚しているから。

「勝手にすればいい」

 けれど、彼の口からは拒否も咎める言葉も出なかった。

 頭をなにかで殴られたような衝撃を受け、ふらふらと覚束ない足取りでその場を去る。その足で予定通りシャワーを浴びるためバスルームに向かい、無意識に鍵をかけた。それとほぼ同時にその場に座り込む。
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