最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
 シャワーを浴びる予定なのに、服を脱ぐ力も入らない。

 私、ばかだ。 彼と想いを通わせ合った気がして、私自身を求められていると感じていた。

 どうして貴治さんが私との関係を末永さんに話していたのかは、わからない。でもひとつだけ言えるのは、貴治さんにとって私は、別れるのが決まってる契約妻のままだ。忘れていたわけじゃない。ただ、私が彼に惹かれてしまっただけだ。

『やめろ。臨には手を出していない。出せるわけないだろ』

『酒も入っていた。普通じゃなかったんだ』

 よかった。末永さんの言う通り、彼と一線を越えたら戻ってこられないところだった。きっと今よりもずっとショックを受けて、苦しんでいた。

 それがわかっていたから、貴治さんも最後までしなかったのだろう。

 昨日はふたりともお酒を飲んでいて、お互いに感情が昂ぶってしまった。だから、あんな間違いが起こったんだ。

 結論づけて、胸がズキズキと痛む。

 熱いシャワーを頭からひたすら浴びた。

『臨』

 愛おしげに名前を呼ばれて、勘違いしちゃったんだ。

 キスの余韻がまだ残る唇を、指でそっと撫でる。

『一緒にいて……くれますか?』

『臨が望んでくれるのなら』

 大人なんだから。真に受けてどうするの。貴治さん、最初に言っていたじゃない。
< 115 / 134 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop