最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
『君ならこの家が欲しくて、下手に婚姻関係の継続を希望や感情に振り回されず、こちらのいいタイミングでさっさと別れてくれるだろう?』

 忘れていたわけじゃない。ただ、私が彼に惹かれてしまっただけだ。

 期間限定の結婚生活だって、貴治さんとの付き合いも割り切れる人間なら、彼は昨日、最後までしてくれたのかな。

 考えても無駄だ。湯船にゆっくり浸かる気にもなれず、顔を髪を洗ってさっぱりする。

『末永のお嬢さんなら、最初から顔見知りが多いから、こんな心配をしなくてもよかったのに……』

 お母さんは、きっと末永さんが貴治さんと本気で結婚したいと知ったら、全力で応援するだろうな。

 とはいえ、貴治さんは末永さんと結婚したいのかな? もともとは彼女と結婚するのを避けるために私に結婚を申し込んできた……んだよね?

 わからない。もしかすると、私と結婚してやっぱり自分と釣り合いが撮れた女性がいいと思い直したのかもしれないし。

 勝手に想像して、勝手に苦しくなって……でも、本人に聞く勇気もない。

 恋って苦しい。誰かを好きになるのって、こんなにも切なくてつらくなるものなんだ。

 バスタオルで乱暴に髪を拭きながら、なんとか気持ちを切り替えようと試みる。そのとき、バスルームに持ち込んでいたスマホに不在着信があったことに気づく。

 日曜日の朝に誰だろう? 矢代先輩だったら、カルペ・ディエムの件を断らないと。

 ところが、着信履歴を見て目を瞠る。そこに表示された名前は予想外の人物だった。
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