最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
「臨、起きてたのか」

「はい。昨日はご迷惑をおかけしました」

 支度を終え、シャワールームを出ると、貴治さんは何事もなかったかのように声をかけてきたので、私も昨日の件には触れずに返す。

 貴治さんは昨日のタキシード姿とは打って変わって、ホワイトのトップスに、ネイビーのシアサッカージャケットを組み合わせている。ラフだが清潔感があり、長身の彼はなにを着てもよく似合う。

 差し障りのない会話を交わしながら、部屋で豪華なモーニングサービスをいただいた。

 新鮮な有機野菜のサラダに、卵料理はオムレツや目玉焼き、スクランブルエッグから好みの料理をもってきてくれる。自家製ヨーグルトに。焼きたてのパン。

 ひとつひとつを味わいながら、時折貴治さんの様子をうかがう。

「おいしいです」

「ならいい。臨にはいつも用意させてばかりだからな。気に入ったなら、今度は下のカフェのモーニングに来るか?」

 きっと昨日までの自分なら、喜んでその日を楽しみにしただろう。でも今は、終わりばかりを意識してしまう。

 あと何回、こうして一緒にご飯を食べられるのかな?

「貴治さん、すみません。今日はこの後、マンションには戻らず、祖母の家に行ってもかまいませんか?」

「どうした?」

 マイナスの気持ちに呑まれないよう、わざと話題を変える。突然の申し出に、貴治さんは目を丸くした。
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