最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
「いいえ。最近行っていなかったので、もう叔父夫婦もいないですし、ちょっと部屋の片づけや空気の入れ替えもしておこうかと」

 嘘はついていない。結婚した当時はもっと頻繁に帰っていたのに、徐々に祖母の家に足を運ぶ回数が減ってしまっていた。

 貴治さんのご実家に行ったり、彼と過ごしたりする時間が増えたから……。

「だったら、俺も行く」

「だ、大丈夫です! 私ひとりで行けますから」

 まさか彼まで行くと言うとは思わず、慌てて遠慮する。しかし、貴治さんは不満げな面持ちだ。

「ふたりでした方が早いだろ」

 さりげない優しさが今は胸に刺さる。そうやって、貴治さんがそばにいるのが当たり前になったりするのが、だめなんだ。

「ありがとうございます。でも、本当にお気遣いなく」

 コーヒーのカップに口をつけながら、さりげなく彼に尋ねる。

「ちなみに貴治さん。私たち、離婚はいつの予定でしょうか?」

「は?」

 珍しく、貴治さんは鳩が豆鉄砲を食ったような顔になっている。けれど私は気にせず、笑顔で告げる。

「今すぐじゃなくても……だいたいでいいので教えておいてくださいね。ちゃんと準備しておきますから」

 期間限定の契約結婚だってわかっている。忘れていないし、勘違いもしていない。
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