最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
 昼過ぎ、久々に祖母の家……母屋の方にやってきた。朝は晴れていたが、どんよりとした雲が徐々に空を覆い始めている。梅雨明けもそろそろだと思うのだが、そうなると本格的に夏がやってくる。

 叔父たちは、貴治さんがこの土地を買い手に入ったお金で駅に近い新築のマンションの一室を購入したらしい。

 べつになんとも思わない。彼らがどんなつもりで、ここに住んでいたとか、もうどうでもいいことだ。

 鍵を使い、中に入ろうとしたら、すでに玄関の鍵は開いていた。勢いよくドアを開け、中に入る。

「おう、臨。久しぶりだな」

 リビングのソファに行儀悪く寝そべってスマホを弄っている男が、へらへらした笑顔で声をかけてくる。だぼだぼのスウェットになにかのキャラクターが描かれた派手なTシャツ。自分で染めたのか、まばらな金髪はお世辞にも清潔感とは程遠い

 高松裕也(ゆうや)。叔父夫婦のひとり息子で、私のふたつ年上の従兄になる。

 高校を卒業後、進学もせず、しばらく働かずに遊び呆けていた彼を、祖母は心配していた。それから、なにをしているのかは知らないが、地元を離れ、関わりがなくなり個人的にはホッとしていた。

 それなのに、まさかこんな形で再会するなんて……。私は嫌悪感で顔をゆがめる。

「勝手に入らないで。ここはあなたの家じゃないんだから」

 叔父たちが預けたであろう、この家の合鍵を返してもらいたい。そのために、私はここに来たのだ。そして、できれば二度とここには足を運ばないようにしないと。
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