最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
『臨ちゃん、おばあちゃんと暮らさない?』

 そんな私に、叔父夫婦や親戚の反対を押し切って、祖母が手を差し伸べてくれた。うれしくて帰る場所ができた安心感に、そのとき母が亡くなって初めて泣いた。

 でも、その祖母ももういない。

 覚悟はしていた。私はもう子どもではないから、ひとりでも大丈夫だ。でもせめて、この家は守らないと……。そう思って貴治さんとの契約結婚を受け入れた。

 でもまた、失うつらさを乗り越えないとならない。ひとりになる寂しさに、膝を抱える日々を過ごすんだ。こんなにも彼のそばが心地よくて一緒にいたいと願ってしまうようになるとは思ってもみなかった。

  手の甲で涙をぬぐおうとすると、不意に真正面から強く抱きしめられ、貴治さんの腕の中に閉じ込められる。

「契約結婚が無理になったのは、俺の方なんだ」

 耳もとで告げられた内容に、驚きで目を見開く。どういう意味なのかを問おうとしたら、彼はそっと私の頭を撫でた。

「臨を手放せそうにない」

 一瞬、空耳かと疑う。けれど、貴治さんの声に余裕はなくて、回された腕の力が強くなる。

「全部、割り切った方が楽だった。親に求められる後継者の資質、周りや会社に求められる成果。結果さえ出せばあとはどうでもいい。そこに自分の求めるものはなにもなくて、結婚も同じだった。だから、臨に結婚を申し込んだ」

 貴治さんの育ってきた環境は、本人からもお母さんからも聞いている。

 最初は理解できなかったけれど、今なら貴治さんが結婚を遠ざけるために、契約なんて言い出したのもわかる気がする。
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