最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
 早めの夕飯を外で食べ、マンションに戻ってきてホッとひと息つく。私にとって帰る家はすっかりここになっていた。ソファに座ってぼんやりしていると、貴治さんが隣に座ってきた。

 頭を撫でられ、心地よさに目を細める。そして、迷っていたもののこのタイミングで私は切り出す。

「あの……今朝、末永さんが部屋までいらしていましたよね?」

「なぜ、それを?」

 今朝の件について尋ねると、貴治さんはわずかに動揺を示した。

「偶然、おふたりの会話を聞いてしまって……」

 正直に告げる。想いを通わせ合ったけれど、貴治さんの発言が頭を離れない。

『やめろ。臨には手を出していない。出せるわけないだろ』

『酒も入っていた。普通じゃなかったんだ』

 思い出して胸がズキズキと痛む。

「その……契約結婚ですし、昨日がちょっとイレギュラーだったんですよね。私は貴治さんが今までお付き合いした女性とはタイプが違うでしょうし」

「違う。そういう意味じゃない」

 傷つきたくなくて納得しようとする私に、貴治さんがきっぱりと否定する。すると彼は苦虫を噛みつぶしたような顔になった。

「彼女に、臨との結婚は仮初めのもので、どうせ適当に遊びで付き合っているように言われたから、ついムキになって反論したんだ」

「え?」

 貴治さんはため息をつきながら、髪をかき上げる。

「でも、それも本当にギリギリだった。臨が酔っているのもわかっていたけれど、あまりにも素直に甘えてくれるから、そのまま欲しくてどうしようもなかったんだ」

 思いもよらない内容に、頬が熱くなる。

「でも、だったら、どうして、その……」

 最後までしなかったんだろう?

 消え入りそうな声で尋ねると、続きを読んだ貴治さんは切なそうに顔をゆがめた。
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