最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
「臨が大事だからだ。それに、なし崩しに抱いて、後でそんなつもりじゃなかったとか酒が入っていたからとか後悔されるのは御免だった。なにより臨自身が酔っているって言っただろ」

「い、言いました?」

 まったく覚えがない。けれど確かに、応えるように彼を求める自分に対し、そんなふうに受け止めていた気はする。

『私、きっとまだ酔っているんだ』

 もしかして……口にしてたの?

「その、あの……。確かに昨日はお酒が入っていましたし、契約妻の立場を忘れて貴治さんに甘えるような真似をしてしまいましたけれど……でも、全部、私の意思です」

 好きじゃないと、あんな大胆な真似はできない。

「私のこと……大事に想ってくれてありがとうございます」

 きっと、あのまま彼に抱かれていても後悔はしなかったと思う。ただ、貴治さんの気持ちがうれしい。

 微笑むと、ぎゅっと抱きしめられた。

「大事にしたい気持ちも嘘じゃない。ただ、それと同じくらい臨が欲しくてたまらないんだ」

 至近距離で見つめられ、余裕のない表情に胸がときめく。

「私も……貴治さんを大事にしたいです。ずっとそばにいたいから……私にも貴治さんをください」

 恥ずかしく顔がまともに見られない。すると不意に貴治さんが離れ、次の瞬間、膝下にすばやく腕を入れられ、私の体は宙に浮いた。

「わっ!」

「臨が望むなら、なんだって差し出せる」

 そう言ってベッドルームに歩を進める彼に、しがみつく。

 こんなにも誰かを好きになったのも、愛されたいと思ったのも貴治さんが全部、初めてだ。
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