最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
エピローグ
 さっきから作業が進まないのは、懐かしい品物を見つけては手が止まってしまうからだ。

「おばあちゃん、こんなのとってたんだ」

 小学校の図工の時間、家族の絵というテーマで私が描いたのは、祖母とふたり、手をつないで近くを散歩している絵だった。

 パーティーから二週間が経ち 、すっかり夏になっていた。今日は、貴治さんと祖母の家の片づけに来ている。

「貴治さん、そっちは――って、なに見てるんですか?」

「臨の高校の制服はセーラー服だったんだな」

 背後で祖母の残した昔の写真を見入っている貴治さんの手から、アルバムを奪おうと躍起になる。

「み、見ないでください!」

「臨は髪が短いのもよく似合う」

「いいから、手を進めてください!」

 人のことはまったく言えないのだけれど。けれどひとりでいたらあふれかえる思い出に懐かしさよりも寂しさを感じていたかもしれない。

 素直に、貴治さんに一緒に来てもらってよかった。

「そういえば、母さんが後で実家に寄ってほしいって連絡があった。また臨に渡したいものがいろいろあるらしい」

「お義母さん、なんだかんだでいただいてばかりで申し訳ないです」

 お義母さんは、末永さんを貴治さんの妻にと望んでいたから、てっきり末永さんの気持ちを知ったら、私に貴治さんと別れるように告げてくると思っていた。けれど……。

『貴治にはもう、素敵な妻がいますから。あの子が自分で選んだ相手だから最初は反対していたし信用していなかったけれど……どうやら正しい選択だったみたい。夫も賛成しているわ』

 末永さんの訴えを、義母は予想外の言葉で跳ね除けたらしい。

 貴治さんから聞いたときは、信じられない気持ちでいっぱいだった。
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