最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
「両親……とくに母が結婚しろとうるさくてね。結婚しない限り、会社も譲らないと言い張り、名だたる企業の社長令嬢や知り合いの娘と、仕事と称して何度も会う機会を設けられ、辟易しているんだ」

 二神さんは鬱陶しそうに吐き捨てた。

「会社の後継者となると大変ですね」

 正直な感想をしみじみと漏らす。社長の息子として彼が跡を継ぐように、結婚は自分のタイミングや感情だけではできないのだろう。

 私にはまったく縁のない世界だ。

「だからひとまず結婚して、半年から一年を目処に別れる。そのあとは、結婚には向いていなかったと言うか、しばらく君に未練タラタラなふりをしておけばいい」

「……無理がありません?」

 頬を引きつらせて答えた。その前に、彼みたいな人が私を選ぶこと自体、納得してもらえないだろう。

「そもそも、なぜ私を? たとえ別れる条件だとしてと、あなたならもっと釣り合いが取れて、相応しい女性がいらっしゃるんじゃないですか?」

 この外見で二神不動産の副社長であり、次期代表という立場なら、仮初めでも妻にする女性には困らなさそうだ。

 私の問いかけに二神さんは、自嘲的な笑みを浮かべる。

「君を選ぶのは、両親への反発心もあるんだ。なんでも思い通りに事を進めてきた両親が、自分の勧める女性とは真逆の君を俺が選んだと知ったら、どんな反応をするか……」

 くっくと喉を鳴らして笑いながらも、目はまったく笑っていない。

「ご両親と仲良くないんですか?」

 戸惑いつつ尋ねると、二神さんはこちらを向いて微笑む。けれど、その表情はどこまでも冷たい。
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