最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
二神さんは質問に答えないまま、先を続ける。

「それに、別れて未練がましくいるなら、父の勧める女性と反対の方が、次の相手を勧められにくいだろうからな」

 たしかに。社長令嬢と結婚して別れたら、同じような相手を宛がわれるかもしれない。

 納得する一方でさっきから心に暗い靄がかかっていく。

「俺と結婚するなら、君の叔父からこの家の土地を俺が買おう。そして、離婚する際に財産分与として君に与える。これで名実共に土地も家も君のものだ。あとは好きにすればいい」

 結婚を持ち出されたときの彼の発言が、やっと理解できた。

「君ならこの家が欲しくて、下手に婚姻関係の継続を希望や感情に振り回されず、こちらのいいタイミングでさっさと別れてくれるだろう? この土地を欲しがっていたクライアントにも、妻の祖母の家だからと話して断れば角が立たない。……お互いに悪い話じゃないと思うんだが?」

 彼は余裕たっぷりに聞いてきた。

 さまざまな条件が重なり、二神さんが私を選んだ理由はよくわかった。彼と釣り合いのとれる女性なら、彼との婚姻関係を終了させる際、惜しく感じるかもしれない。彼は自分の魅力をよくわかっている。

 おそらく私は、彼が今まで相手をしてきた女性とはまったく違うタイプなのだろう。彼はもちろん、私が彼になにか余計な感情を抱く可能性はないと確信しているんだ。

 私は改めて笑顔を作って彼に微笑み返した。

「お断りします」

 私の回答が意外だったのか、二神さんは虚を衝かれたような顔になった。私は迷いなく続ける。

「お話はわかりました。でも、お断りします」

「……誰か付き合っている相手でもいるのか?」

 いないけれど、まずはそこを確認するべきではないだろうか。
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