最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
「君の叔父から、おそらく恋人はいないと聞いていたんだ。だからなかなか家を出ていかないだろうと」

 私の顔色を読んだのか、二神さんが答えた。それと同時に叔父に対し嫌悪感を覚える。叔父の妻と共に、あの人たちにデリカシーというものなど微塵もないのは今さらだ。

「たしかに、お付き合いしている人はいません。でも、そういう問題じゃないんです」

「なら、なにが気に入らない?」

 面倒くさそうに問いかけられ、私は笑みを崩さずに返す。

「私には地位も名誉も、他人様に誇れる肩書きもありません。両親もいない。あなたにとっても、あなたのご両親にとっても至らない人間だと思います。でも、馬鹿にされる生き方はしていません。期間限定でも、見下されて結婚なんて御免です。……たとえこの家を手に入れるためでも」

 話しながら、なにか溢れそうになるのをぐっと堪える。

『臨ちゃんはなにも悪いことをしていないんだから、胸を張って生きなさい』

 両親がいなくて、子どもの頃は好き勝手言われたりもした。けれど、そんな私に祖母は真正面から向き合ってくれた。

 だから私は自分を否定せずに生きてこられたんだ。

 一瞬の沈黙が車内に降りる。

「では、私はこれで――」

 ドアインサイドハンドルに手を掛け、ドアを開けようとした――そのとき。

「見下しているわけじゃない」

 冷静に返され、思わず手を止める。見ると、二神さんは真剣な眼差しでこちらを見ていた。薄暗い中、彼の顔から目が離せず、息を呑む。
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