最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
「わかった。でも待って三日だ」

「み、三日!?」

 あまりにも短い期間を提示され、つい声をあげる。せめて一週間とかあってもいいのでは?

「せっかちなんだ、俺は」

 私の顔色を読んだのか、二神さんが面倒くさそうに答える。内心でため息をついた。

「そうですね。今日もお忙しい中、お時間を取らせてすみません」

 初めて会ったときのやりとりを思い出し、つい可愛げのない言い方をする。彼にとっては、この結婚話も仕事の延長線上で、クライアントにするようなものと同じなのだろう。

 今度こそドアを開け、車を降りようとする。

「いや。改めて君と話せてよかったと思っている」

 しかし、予想外の言葉が投げかけられ、一瞬動きを止める。それを悟られないように、私は彼の方を見ないまま車を降り、頭を下げた。

「失礼します」

「三日後、また返事を聞きにくる」

 私はなにも返せず、ドアを閉めて彼が車を発進させるのを見送った。

 ひとりになり、急に自分の身に起こった出来事に心臓がドキドキと早鐘を打ち出す。

 結婚? 二神さんと? 会ってまだ二回目なのに? あ、でも期間限定のあくまでも形だけのものだから関係ない? でも戸籍は変わるわけで……。

『臨ちゃんの花嫁姿を見るまでは、おばあちゃん元気でいるからね』

 離れに向かいつつ母屋の方を見る。電気がついていて、その光景に唇を噛みしめる。四十九日のときに久しぶりに母屋に足を運んだが、すっかり叔父夫婦のものであふれ、祖母が大事にしていたものは、一室に乱雑に放り込まれていた。

 やっぱり、母屋を叔父夫婦に明け渡したのは失敗だったのかな。

 わずかな後悔が滲み、頭を振る。

『俺と結婚するなら、君の叔父からこの家の土地を俺が買おう。そして、離婚する際に財産分与として君に与える』

 もうこれ以上、なくすのは嫌だ。私が守れるものは、守らないと。
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