最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
第一章
 春の息吹を感じる三月半ばの週末。晴天に恵まれ、祖母の四十九日の法要が無事に自宅で執り行われた。喪服に身を包み、手を合わせて静かに祈る。

 おばあちゃん。私、ひとりでも頑張るからどうか見守っていてね。

 高松(たかまつ)(りん)、社会人三年目が間もなく終わる二十五歳。育ての親である祖母を一月に亡くし、懸命に自分を奮い立たせていた。今も気を抜いたら思い出と共に涙がこぼれそうになるのを必死に我慢する。

 庭で親戚を見送り、ふぅっと一息ついてうしろで結んでいた髪をほどいた。肩より少し伸びたストレートの黒髪は一度も染めたことはない。髪を耳に掻き上げ、心地いい風を感じる。

 身長は百五十七センチとあまり伸びなかったのが残念だ。母も祖母もあまり背が高くなかったそうなので遺伝なのかもしれない。

 ややつり上がった目とあまり愛想がないので、つい冷たそうな印象を抱かれ、子どもの頃は両親がいない環境も相まってよくいじめられた。

 けれど、私はもう大人だ。

 気が抜けそうになったが必死に自分を奮い立たせる。ある意味、私にとっての本番はこれからだ。気合いを入れて家の中に戻ろうとすると、見慣れない車が敷地内に停まった。

 誰か忘れ物をしたのかと思ったが、あからさまに場違いな外国産の高級車に考えを打ち消す。一体、なんなのか。

 眉をひそめて見ていたら、運転席からスーツ姿の男性がひとり降りてきた。

 次の瞬間、こちらを向いた彼と不意打ちで目が合い、その外見に思わず息を呑んだ。
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