最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです

 切れ長の瞳、すっと通った鼻筋。艶のある短い黒髪は無造作なのに言い知れぬ色気があり、カッコイイとかそういう感想よりも先に、他者を圧倒する雰囲気に気圧されそうになる。

 見惚れる、なんていいものじゃない。背が高い彼との身長差も相まって、私は蛇に睨まれた蛙になる。その証拠に、彼はどこまでも冷めた表情をしていた。

 誰? おばあちゃんの……知り合い?

「あの」

「この家の建物の所有者はどこに?」

 端的な質問に目を見張る。心臓が大きく跳ね、さらに警戒心を強めて身構えた。

 なにも言わない私に、彼は大股で近づいてくる。

「話をしたい。こちらも忙しいんだ。時間は取らせない」

 見るからに高級そうな腕時計を確認しながら、彼は面倒くさそうに告げた。その言葉と態度に、心の奥にある何重もの扉が硬く閉まっていく。

「あなたは?」

 自分でも驚くほど冷たい声だったが、彼は特段気にしていない様子だ。

二神(ふたがみ)貴治(たかはる)

 名前だけを告げられたもののすぐに彼が何者なのか見当がついた。今、この土地のことでやりとりしている二神不動産の人間だ。

 しかし、今までやって来ていた担当者ではない。しかも二神って……。

「臨!」

 そのとき名前を呼ばれて振り返る。怒りに顔を歪ませている叔父がこちらに近づいてきた。

「いつまで外でいるんだ。話があるから中に……」

 ところが、叔父の勢いは急にそがれ、彼を目にした瞬間、さっと無理やり顔に笑みを浮かべた。
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