最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
「まだ予約が取れたわけじゃないからな。あまり期待しすぎるなよ」

「はい」

 思い出に引きずられそうになるのを振り払い、冷静に返す。

 以前、私がカルペ・ディエムに行きたいと言っていたのは、祖母と行くためだった。

 老若男女問わず人気のカルペ・ディエムに友人が行ったことがあると祖母が話していて、少し羨ましそうな感じだったので、私は一緒に行こうと提案した。

『おばあちゃん、私と行こうよ! 予約しておくからさ。会社とのつながりを使えるほど、偉くもないし、そんな立場じゃないんだけれど、普通に今予約したら、ちょうどボーナス出る頃には行けると思うし』

 思い立ったが吉日といわんばかりに推し進める私に、祖母は苦笑する。

『おばあちゃんはいいわよ。それより、お友達や好きな人と行きなさい。いつまでも私はそばにいてあげられないんだから、臨ちゃんは今いる人やこれからの出会いを大切にしないと』

 そのときは、ただ聞き流していた。正確には深く受け止めたくなかった。残された時間とか、最近さらに祖母の老いを感じることとか。

 全部、気づかないふりをしていた。だからばちが当たったのかもしれない。

 結局、カルペ・ディエムを予約したもののキャンセルした。一緒に行くはずだった祖母が行ける状態ではなくなったから。他の誰かと行く気にもなれない。

 私、おばあちゃんになにも孝行できないままだったな。
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