最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
 仕事を終え、帰路につく。結局、二神さんから連絡はとくになく、正直拍子抜けしていた。

 叔父に聞いたら、私の連絡先はわかるだろうし……もしかして、やっぱりなかったことにするとか? 忙しいって言ってたから、そもそも忘れたとか?

 悶々としつつひたすら足を動かしていると……。

「お疲れ」

 不意に声をかけられ、心臓が口から飛び出そうになる。視線を横に向けると、見覚えのある車がハザードランプをつけ、すぐそばで停まっていた。開いている運転席の窓から鋭い眼光が飛ばされる。

「送っていこう。どうせそちらに向かっていたんだ」

 こちらがなにか言う前に、二神さんが続ける。こちらの言い分などまるで聞く気もない。その態度に反発してつい断ってしまいたい衝動に駆られたが、ぐっと堪える。

「……お言葉に甘えます」

 悩んだ末に私は決断し、素早く助手席側に回り込む。ドアを開けためらいなく乗り込んだもののシートベルトに手を伸ばす。この席に座るのは二回目だが、妙に近い距離に心臓が早鐘を打ち出す。しかもこれから話す内容を考えると、変な汗が噴き出しそうになった。

 妙な沈黙が車内を包み、なにか喋るべきかと二神さんの方をうかがう。前を見据える彼の横顔を視界に捉え、口を開く前に彼の唇が動く。

「この前の返事、聞かせてくれないか?」

 緊張している私に対し、彼は前触れもなく単刀直入に聞いてきた。たしかに世間話をする仲でもない。彼が知りたいのは答えだけだ。
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