最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
「……約束、守ってくれるんですよね?」

 おずおずと尋ねると二神さんは前を向いたまま頷いた。

「ああ。きっちり契約書も用意する」

 その言葉に偽りはないだろう。どこまでも割り切っているのは、私にとってもチャンスだ。こんな方法は間違っているかもしれない。でもあの家を叔父の好きなようにはさせたくない。

「わかりました。……結婚します」

 私も前を向いて答える。彼に、というより自分に言い聞かせるようだった。そのタイミングで車が止まり、なにげなく隣に視線を遣ると、彼もこちらを見ていた。

 目が合い息を呑んだあと、私はさっきよりも大きい声ではっきりと告げる。

「私、あなたと結婚します」

 それぞれの目的のために。私以外を選ぶこともできたのに、彼は私を選んでくれた。どんな理由でも、利用しない手はない。

「約束は守るし、悪いようにはしない。よろしく頼むよ」

 どこまでも淡々とした二神さんの物言いに、結婚だと意識してしまっていた自分が馬鹿らしくなる。ただ戸籍が変わるだけ。そして彼と結婚した事実は残っても、すぐにまた元に戻る。

「お、送ってくださってありがとうございます」

 気づけば家の駐車場についていた。返事を聞いたのだから、もういいだろう。

「連絡先を教えてくれないか?」

 ところが車を降りようとして声がかかり、目をぱちくりとさせる。

「結婚するのに連絡先を知らないのも妙だろう。これから具体的に話を進めていく必要もある」

 二神さんの言い分はもっともだ。だからこそ、このタイミングなのがどこか不思議だった。
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