最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
「そう、ですよね。今回もてっきり叔父にでも私の連絡先を聞いて電話で済ますと思っていました」

 タイミングが合ったからよかったものの前回にしても、彼は私の帰りを多少は待っていたのだろう。

 忙しい彼が非効率な真似を二回もするなんて。

「君が言ったんだろ?」

「え?」

 彼の答えで我に返り、思わず聞き返す。こちらを見た二神さんと視線がぶつかった。

「叔父にではなく直接自分に聞け、と」

『本人に直接確認もせず、叔父から聞いた情報だけで私を判断する人とは結婚できません』

『それは善処する』

 先日、最後に交わしたやりとりを思い出し、目を瞠った。

「どうした?」

 反応を示さない私に、彼は怪訝な顔で聞いてくる。

「いいえ。その……私の言ったことを律儀に守ってくださったんだなって」

 驚きを隠せずに、素直に告げた。正直、私の意見などあっさり無視されると思っていたから。

 二神さんは不機嫌そうになる。

「善処すると言ったはずだ。自分の言葉には責任を持つ」

 なるほど。彼はただ冷たくて利己的な人ではないんだ。

 少しだけ二神さんの印象を改め、私はバッグからスマホを取り出した。

「臨」

 連絡先を交換し終え、不意に名前を呼ばれ、顔を上げる。

「結婚するなら、名前を呼んでも?」

「あ、はい」

 他意はない。彼は結婚するうえで必要なことをこなしているだけだ。

 私も、覚悟を決めないと。祖母の家を手に入れるため、二神さんの期間限定の妻になるんだ。

「よろしくお願いします、貴治さん」

 ぎこちなく私も彼の名前を呼んで答える。

「ああ。悪いようにはしない」

 今なら彼の言葉を信じられる気がした。
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