最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
 なに泣いているの、私?

 泣いている場合ではない。これ以上、貴治さんにあきれられてしまう前に早く止めないと。

 勝手に心配して、勝手に泣いて……。

 馬鹿だ、私。

「た、体調が悪いなら、こんなところじゃなくてベッドで寝てください」

 彼の顔を見ないまま言い放つ。すると彼がおもむろに立ち上がったのが、気配で伝わってきた。

 それでも顔を上げられない。

「悪かったな」

 呟かれたのと同時に頭に手のひらの感触があった。ドアが閉まる音がして、そちらに視線を遣る。

 貴治さん、本当に大丈夫かな?

 つい反発心で素っ気ない態度をとってしまったが、置かれた彼の手は熱かった。

 ただでさえ仕事が忙しいのに、結婚やここに住む段取りなどはすべて彼に任せていた。叔父から土地を買い、名義変更をする手続きも簡単ではない。体調を崩すのも無理はないかもしれない。

 余計な干渉は、貴治さんは望んでいない。契約書にも書いてあったし、彼の言動からすると、この結婚生活はどこまでいっても形式的なものだ。

 それどころかさっきみたいに鬱陶しがられるだけかもしれない。

 でも――。

 ひとまず荷物を片付けようと私も立ち上がった。
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