最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
 やっと一段落したところで、貴治さんが気になる。彼が寝室に向かって一時間は経過しているが、調子はどうだろうか。

 もしも悪化していたら……。

 悩みつつ私は彼の部屋に歩を進める。やっぱり具合が悪い人をほうってはおけない。

 貴治さんの自室のドアを三回ノックする。 当然返事はないが、想定内だ。あくまでノックをして断りを入れたという大義名分のためにしたところもある。

 緊張しつつドアを開けて中に入る。モノトーンでまとめられた部屋は明かりがついたままだった。

 ベッドで横になっている貴治さんにそっと近づく。呼吸は荒く、しかめっ面になっている貴治さんに声をかける。

「具合はどうですか? 痛みや熱は?」

 ちらりとこちらを一瞥したものの彼はなにも答えない。声を発するのも苦しいのだろうか。

「氷枕と一応、市販薬を持ってきました。あと水分も――」

「放っておいてくれないか」

 彼の口から飛び出たのは、あきらかな拒絶だった。貴治さんは眉間に皺を寄せてこちらを見る。

「君には関係ない。寝ていたら治る」

 やっぱり余計な真似だったと後悔する。とりあえず用意したものをベッドサイドテーブルに置いて、この場を離れようとする。
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