最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
「水をもらえないか?」

「どうぞ。スポーツドリンクもありますから、飲める方で水分を取ってください」

 グラスに水を注いで彼に手渡す。今度は素直に受け取ってくれた。

「薬はどうします?」

「もらう」

 その流れで薬も手渡した。念のため、なにか食べられるか聞いてみたが、答えはノーだった。熱が高いし、無理もないだろう。

 彼が再び横になったのを見届け、ホッと胸を撫で下ろす。

「体はしばらくつらいでしょうけれど、あとは眠れるだけ眠ってください」

「臨」

 今度こそ、部屋を後にしようとしたら貴治さんから声がかかり、振り向いた。しかし、彼はなにか言いたげな面持ちだが、その後が続かない。

 無理に続きを促しはせず、私はにこりと微笑む。

「欲しいものとか、なにかあったらスマホを鳴らしてください。後でまた様子を見に来ますから。ゆっくり休んでください」

 優しく返し、部屋の照明を少しだけ落として貴治さんの部屋を出る。キッチンに戻りつつ、ずいぶんと強引な真似をしてしまったのではないかと今さらながら不安になる。

 本当に放っておいてほしかったのかもしれない。でも、あのままなにも知らない顔をして、彼になにかあった方が嫌だ。

 彼のためじゃない。すべて私自身のためだ。

 心を覆いそうな靄を全力で振り払った。
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