最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
 駅からは遠く、近くにあるのは中央医療センターくらいだ。むしろ他にあまりなにもないからこんな大きな病院を建てられる土地があったわけなのだが。

 土地を手放すにしても貸すにしても、建物の所有者の許可がなければ勝手に解体などはできない。つまり家が建っている以上、この土地を欲しがる人間ないないというわけだ。

 私の言い分に叔父は怒りで顔を真っ赤にする。

「いい加減に――」

「現状を少しは理解したらどうだ?」

 叔父がなにか返す前に第三者の声が割って入った。口を挟んだのは二神さんで、彼は私を冷たく見下ろし、懐から小型タブレットを取り出す。

 負けじと彼を睨むと、画面を操作した二神さんはそれをこちらに見せてきた。

「この土地と建物の評価額とそこから割り出した市場価値のデータだ」

 お世辞にも高いとはいえない数字が並んでいるが、とくに驚きはない。

「利便性も悪く、維持費や税金ばかりをとられ、築年数から今のままだとどこかで、がたがくる。買い手がいる今、手放すのが最善だとなぜ理解できない?」

 顔色ひとつ変えない私に二神さんが言い放つ。

「そうだぞ、臨。この話を受けないなんてありえない」

 二神さんの言葉に必死で叔父は乗っかる。けれど、私の気持ちは冷めていく一方だ。なにも反応を示さない私に、二神さんはタブレットをしまい、苛立ちを含んだ眼差しを送ってくる。

「いくら欲しいんだ?」

 予想外の質問に目を見張った。

「はっ?」

 おかげで素で聞き返す。彼は軽くため息をついた。
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