最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
「駆け引きは時間の無駄だ。購入希望者は隣の区間整備した土地と合わせてここも強く望んでいる。今の時点でも破格の値段を提示しているが、もう少し交渉すれば――」

「お金の問題じゃないんです。いくら提示されても売るつもりはありません!」

 彼の言葉を遮る形ではっきりと言い切る。値段をつり上げたいと思われているなら心外だ。それともわざと? 嫌味?

 二神さんは目を見張り、軽く肩をすくめた。

「理解できないな。処分しようとしたら逆に金がかかるかもしれないくらいだ。この話を受けないのは馬鹿だ」

「馬鹿でも理解していただかなくても結構です」

 彼が言っていることはある意味正しい。わかっている。けれど譲るつもりはない。

 譲歩する気はない私に、二神さんは冷ややかな視線を送ってくる。

「後悔するぞ。君以外、みんな売った方がいいと思っている」

 この感情は怒りなのか、悲しさなのか。ふつふつと湧き起こる感情に、唇をぐっと噛みしめる。

「ご忠告感謝します。でも周りも世間もどうでもいいです。数字でしかこの家を見られないあなたや叔父にはわからない。私は育ったあの家が……祖母の家が大事なんです。大好きで、思い出が残っていて……」

 意図せず声が震えてしまう。感情の昂りを抑え、彼を睨みつけた。

「手放すときが仮に来たとしても、それは今じゃない。ましてや、あなたみたいな人に託せられない。今、売った方がよっぽど後悔します」

 揺るがない気持ちをぶつける。私をたしなめる叔父の声が耳を通り過ぎていく。

 私だって相手が違うと頭では理解しつつ、自分の気持ちを口にするのは、まだ動揺しているからだ。
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