最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
第四章
 ゴールデンウイークが終わると、あっという間に月末 が見えてくる。

 打ち合わせの会議を終え、質問のあった箇所を補足するための資料を急いで作成する。

「高松さん、さっきの会議で話題に上がっていた他社のデータ、送っておいたから」

「ありがとうございます」

 変わらずに『高松さん』と呼ばれる日々だが、戸籍上は私は二神臨になった。字面がちょっと仰々しい感じになってしまったと思うが、こればかりはしょうがない。

 貴治さんのご実家に挨拶に行った後、私たちは予定通り婚姻届を提出した。

 形式上の結婚とはいえ、夫婦で新たな本籍地を設定する必要があった。自分の戸籍が変わってしまうのは、なんだか感慨深かった。

 会社にも報告したが、手続き関係を扱う部署や直属の上司など必要最低限に留めた。一年もしないうちにこの婚姻関係は解消される。旧姓で仕事も続けるつもりだし、あまり知られない方がいい。なにより私自身、結婚した自覚がほとんどない。

 それでも貴治さんとは、タイミングが合えば食事は一緒に取るようになった。体調を崩した翌朝、彼の分を用意したのをきっかけに、それが当然の流れになったのだ。もちろん、私が強引に押した部分が大きい。

 少しずつ会話も増えて、今では食事が必要ないときはきちんと連絡をくれる。意外とまめだ。

 貴治さん、今日は夕飯いらないって言ってたな。

「高松さん、電話よ」

「はい」

 作業を中断し、答えながらも内心で首を傾げる。私個人宛に電話は珍しい。いったい誰からだろう。

「二神不動産の方からよ」

「え?」

 続けられた相手に、手を止めそうになる。貴治さん? でも彼なら私に直接連絡があるだろうし。もしかして彼になにかあった?

 緊張しつつ私は受話器を取った。
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