最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
「ありがとうございます」

 私は笑顔でお礼を告げた。するとお母さんは虚を衝かれた顔になる。

「大事な情報を先にいただけてありがたいです」

 早速、座ってファイルを確認しようとすると、お母さんから声がかかる。

「言っておきますけどね、大事な個人情報なんです。持ち出しはさせませんから」

 なるほど。それでデータ化もしていないのだろう。パラパラと中身を見ると、几帳面な字で関係者ひとりひとり、写真付きで書き綴っている。ざっと二百人くらいはいるだろうか。

「あの、ならまたこうしてご実家にお伺いしてもかまいませんか?」

 私の問いに、お母さんは眉をひそめ、ふいっと顔を背けた。

「勝手にしなさい」

 鞄から仕事用に持ち歩いているノートとペンを取り出し、私はファイルの情報を読み込んだ後、暗記した内容をひたすら書き出していく。

 暗記は得意だ。試験勉強に明け暮れた学生の頃を思い出す。

 おばあちゃんに迷惑をかけたくない。両親がいないからと、言われるのが嫌で勉強を必死にがんばった。それなりに友達はいたけれど、放課後どこかに遊びに行ったり、おしゃれを楽しんだりする余裕はほとんどなく、それが悔しくて寂しかったりもした。彼氏どころか恋をすることも……。

「あなた」

「あ、はい!」

 集中していたので、必要以上に驚いて大きな声になってしまった。顔を上げるとお母さんが腕を組んでこちらを見ている。
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