最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
 メバルの身は柔らかく、しっかりと味が染みていて臭みもない。どんなふうに下処理をしているんだろうか。

 お母さんはどこかに行くのかと思ったが、なぜか私の真正面に座り、こちらをじっと見つめてくる。なにかを試されているのか、確認されているのか。

 つい身構えてしまうが、考えてもわからないので箸は止めずに食べ進める。しかし、無言なのもなんだか気まずい。

「とてもおいしいです。今年はメバルを食べていなかったので……。もうそろそろ終わりですよね」

 世間話程度に振って、ハッとする。これでは貴治さんにろくに料理を振る舞っていないと怒られてしまうのではないか。

「魚、調理できるの?」

 ところが予想外の質問を投げかけられ、わずかに意表を突かれる。

「ええ。大きな魚は難しいですが、基本的な捌き方は祖母に倣ったので……」

 見栄を張らず正直に答える。けれどお母さんは鼻で笑った。

「でも若い人は、もっとおしゃれな料理が好きなんでしょう?」

「そんなことありませんよ!」

 問いかけというよりも独り言に近いお母さんのつぶやきに、つい反応してしまう。言ってしまったものはしょうがないと私は補足するように続ける。

「もちろんそういった外国だったり流行りのお料理も好きですが、祖母が作る和食中心の料理で私は育ってきたので……。どうしても好みの味は和食の方になるんです。だから、このお料理、本当においしいですし、食べられて幸せです」

 再び箸を動かす。また降りてきた静寂に、私は改めてお母さんの方を見た。
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