最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
「貴治さん、好き嫌いはとくにないとおっしゃっていました。なんでも食べられるのは、お母さんのお料理がお上手で、おいしいからなんでしょうね」

 それはすごく、素敵なことだ。

 ちょうど食べ終わったので、「ごちそうさまでした」と手を合わせる。そのタイミングでお母さんがなにかを言いかけた。

「臨!」

 しかし、別方向から名前を呼ばれ、心臓が口から飛び出しそうになる。

「た、貴治さん!?」

 ダイニングにやってきたのは、貴治さんだった。仕事終わりなのか、スーツ姿で息せき切っている。
「母さん、どういうことですか? 臨を仕事終わりに呼び出すなんて」

 貴治さんはお母さんに食ってかかる勢いで詰め寄った。けれどお母さんは無表情のままだ。

「社長から聞いたでしょう。創立記念パーティーの件。彼女をあなたの妻として同伴させるなら、それなりの準備をしてもらわないと困るの」

「彼女のフォローは俺がします。あなたの考えを押しつけないでください」

 間髪を入れずに貴治さんが返す。それに対し、お母さんは皮肉めいた顔を笑みを浮かべる。

「押しつける? なにを言っているのかしら? 妻の振る舞いが夫の評価につながるの。あなたに彼女をフォローする余裕なんてあるのかしら?」

「ありますよ。俺は社長とは違いますから」

 貴治さんの返答に、一瞬お母さんは傷ついたような顔になる。

「臨、帰ろう。もうここに来なくてかまわない」

 呆然とする私の肩を貴治さんが抱き、玄関の方へと促す。貴治さんはお母さんの方に目もくれず、それがなんだか寂しく感じた。
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