最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
 私は余計な口を挟む立場ではない。わかっているけれど……。

「貴治さん。ご心配をおかけして、すみません。ですが本当に、お母さまから聞いたことはためになりましたし、こうしてご飯もご馳走になって感謝しているんです」

 私の主張に貴治さんは、顔をしかめる。それには気づかないふりをして、私はお母さんに頭を下げた。

「ごちそうさまでした、長居してすみません」

 頭を下げ、貴治さんに続き実家を後にしようとする。

「これから、貴治が仕事で遅くなるときはうちへいらっしゃい。まだ全部の資料に目を通せていないんでしょ?」

 お母さんの言葉に、貴治さんがなにかを返す前に私はすばやく答える。

「はい。お言葉に甘えます」

「臨!」

 貴治さんがたしなめるように名前を呼んだが、わざと気づかないふりをする。

「貴治さんもお疲れのところ、ありがとうございます。帰りましょう」

 今度は私から彼の背中を押す形で家の外に出た。しばらく沈黙が続き、目の前の光景に私が先に口を開く。

「タクシー?」

 実家のそばにはタクシーが控えていた。

「ああ。今日は飲んでいたからタクシーで迎えに来たんだ」

「そうだったんですね、わざわざすみません」

 タクシーの運転手を待たせていたのと、そこまでして迎えに来てもらった申し訳なさに肩を縮める。

「問題ない。臨こそ母さんになにを言われた? 無理に従わなくてもかまわない」

「あ、いいえ……」

 そこでふたりでタクシーの後部座席に乗り込んだ。貴治さんがマンションの場所を指示し、車はゆっくり動きだす。そのタイミングで実家での出来事を話し始めた。
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