最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
 お母さんに渡された資料は、パーティーで同伴するなら絶対に役に立つものであり、無理強いされたわけではなく、覚えるのは私自身の意思であること。

 料理も出してもらい、とてもおいしかったことなど、貴治さんに心配をかけないように明るく説明する。

 貴治さんは黙って私の話を聞き、終わる頃に大きなため息をついた。

「パーティーで臨を紹介するにしても、相手は初対面なのはわかりきっているんだ。そこまでして構える必要はない」

「そうかもしれませんが、予備知識があるのとないのとでは、違うでしょうし……」

「だからって、あの場だけで覚えろなんてむちゃくちゃだ」

 ぴしゃりと明言され、とっさに言葉が続かない。貴治さんの言い分はもっともだ。けれど――。

「……でもお母さまは、そうやって社長夫人としてパーティーなどの催しに臨んでこられたんですよね」

 あの見せてもらった資料は、おそらくお母さんが自身でまとめてきたものなのだろう。二神不動産や二神社長が個人的に付き合いのある企業の社長や重役、その妻と綺麗に分けられ、各会社に関する新聞や雑誌記事のスクラップもしてあった。

 趣味や好きなもの、出身などは直接会話から知った情報なのか、幾度となく書き足した跡があった。

 私を貴治さんの妻として認めていないのは間違いないけれど、お母さんが意地悪だけであんな真似をしたとは考えられなかった。

「仮にそうだとしても、臨が同じようにする必要はないんだ」

 貴治さんにフォローされ、ありがたいと思う反面、胸がズキリと痛む。

 もしも私が契約とかではなく本物の妻だったら、『がんばれ』って言ってもらえるのかな。いい妻になるよう応援してもらえる?

 その考えが浮かび、頭を振る。
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