最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
「……今日、四十九日が終わったばっかりです。祖母が亡くなって……まだ、受け入れられません」

 打って変わって覇気なく呟いた。そこで、業者の彼に話しすぎたと後悔する。

「そ、そういうわけなので、申し訳ありませんがこの土地は諦めてください。貴重なお時間をすみません。失礼します」

 一方的に言い切って、踵を返す。でも建物の所有者である私が売るつもりはないと副社長の彼にはっきりと伝えたのだ。叔父がどんなふうに話を進めていたのかはわからないが、ひとまずすぐにここが誰かの手に渡ることはないだろう。

「臨!」

 建物の中に入ろうとしたら、叔父が鬼のような形相で私を追いかけてきた。

「さっきのあの態度はなんなんだ! 副社長の言うとおり、こんな古い家を残しておいてどうするんだ。買い手がいる今、売るしかないだろう。お前も社会人になったんだからさっさと出て行け!」

 声を荒げる叔父に、身がすくむ。けれど折れるわけにはいかな。

「叔父さんは……いつから、ここを売ろうとしていたんですか?」

「そんなの関係あるか? どっちみちこの土地は俺のものなんだ」

 叔父の答えに眉をひそめる。叔父からこの土地の売買について話を聞かされたのは祖母のお葬式の後だった。おそらく祖母が亡くなる前から、この土地を手放すつもりで動いていたんだろう。ずっと祖母を気にかけることもなかったのに。

 非難の目で叔父を見つめると、彼は平然と吐き捨てる。

「まったく。お前みたいな疫病神を拾ったせいで、母さんは苦労した挙句亡くなるし、残った家は手放せない。どこまで迷惑をかけたら気がすむんだ?」

 叔父の指摘に私はぎゅっと握りこぶしをつくるが、なにも反論しない。

「建物は私名義です。絶対に手放しませんから」

「おい、臨!」

 これ以上、叔父と話していても無駄だ。蔑まれて罵られるだけ。昔からそうだ。
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