最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
 ふとリビングの大きな窓から外を見る。ここら辺ではひときわ高いマンションのほぼ最上階。空が近いこの景色は、貴治さんと結婚するまで知らなかった。

 ちょっと、怖いかも。

 貴治さんにとっての当たり前が、私にとっては初めてで未知のものばかりだ。

 つくづく私と彼とでは住む世界が違うのだと実感する。

 しばらく外をぼんやり眺めていると、さっきまで青かった空が急に暗くなっていく。雨が降り出しそうだと思った瞬間、雲から細い雨粒が勢いよく落ち始めた。あっという間に視界が不透明になる。

 天気予報では雨が降るなど微塵も言っていなかったので、おそらく通り雨のようなものだろう。

 打って変わって世界が変わり、多くの人がこの事態に戸惑っているはずだ。

 時計を確認すると午後四時半を過ぎていた。もうすぐ貴治さんの出席している講演会が終わりを迎える。

 彼は傘を持っていっていないし、おまけに今日は徒歩だ。

 貴治さん、大丈夫かな?

 一時的なものだとしても、この篠突く雨はすぐには止みそうにない。

 どうしようか迷ったのは一瞬、私は出かける準備をさっさと始めた。

 マンションのエントランスから外に出ると、思った以上に雨脚は強かった。雨が地面を叩きつけ、行き交う人の中には、傘をもっておらず走る人、あきらめて濡れる人などさまざまだ。

 私は撥水と防水機能が備わっているアイボリーのレインコートとダークグレーのレインブーツを着用し、さらに傘を差して万全を期している。

 足もとにできた水たまりが歩くたびに跳ね、傘を弾く雨音が逆に静けさをもたらす。

 きっと天気のいい日に歩いたら、十分もかからないのに、皆の動きがゆっくりだからか、十五分ほどかかって目的地に着いた。
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