最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
「すみません、自分の話ばかり……」

 貴治さんには関係のないことばかりだ。

「いいや。臨のことが知れてよかった」

 まさかそんな切り返しをされるとは思ってもみなかった。だからすぐに反応できない。

 胸が苦しくて、息ができなくなる。

 マンションにたどり着き、玄関のドア前でレインコートを脱ぐ。傘を差していても、結構濡れてしまった。貴治さんも同じだ。

「お風呂の準備をしているので、どうぞ」

 ジャケットを脱ぐ貴治さんに声をかける。ネクタイを緩め髪をかき上げる仕草に妙な色っぽさを感じ、つい目を逸らしてしまう。

「俺は後でいい。先に臨が温まってこい」

「そんなわけにいきませんよ! 私はレインコートを着ていましたし、大丈夫です」

 万全で雨模様に臨んだ私と彼では違う。しかし貴治さんは納得していな表情だ。

「臨はこの雨の中、往復しているだろ。体も冷えている」

「平気です。私が勝手にしたことですから。むしろ私のせいで貴治さんが体調を崩したら元も子もないと言いますか……」

 たどたどしく伝えると、貴治さんは眉をひそめた。

「臨が迎えに来なかったら、雨の中濡れて帰ってきていた」

 ぽつりと貴治さんがつぶやいたので、目をぱちくりとさせる。彼は軽くため息をついた。

「タクシーの列に並んで、なかなか捕まらないか、雨で渋滞してまだ帰ってこられていないかもな」

 彼は真っ直に私の方を見た。

「臨が迎えに来てくれて感謝しているんだ。だから自分のせいとか思う必要ない」

 彼の言葉が揺れていた心の中にすとんと落ちてくる。
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