最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
 背中のチャックを上げるのを店員に手伝ってもらい、私は試着室から出た。

「まぁ、素敵ですよ」

 感嘆の声を漏らす店員は、続けてお母さんの方に視線を移した。私ではなく、お母さんの意見がすべてだ。

 お母さんは定めるような目で私を見てくる。

 シャンパンカラーの光沢あるドレスは、スカート部分はコードレースになっており丈がくるぶしまであるロングライプ。ハイウエストで上半身は大きな花の刺繍で覆われている。袖やデコルテはほどよくシースルーになっており、重たすぎず絶妙なデザインだ。

 正直、今まで試着した中ではこれが一番、しっくりくる。

「さっきのより丈も長くて上品な刺繍も素敵だし、いいんじゃないかしら」

 お母さんも同意見だったので、やっとドレスが決まったと店員も私もホッとする。試着室でドレスを脱ぐ。

 せめて支払いは、自分でしようと試着室を出たが、先にお母さんが会計を済ませてしまっていた。さっさと店を後にするお母さんに慌ててついていき、深々と頭を下げる店員を横目に店を出た。

「ありがとうございます」

「お礼はいらないわ。それよりも時間がないから先を急ぐわよ」

 素っ気なく返されたものの、ひとまずついていくしかない。

 そこからは怒涛の展開だった。

 なぜかホテル内にあるエステに連れていかれ、質問する間もなく全身を揉まれ磨かれる。正直、初めての体験に緊張しかなかったが、施術中は気持ちよくてウトウトしてしまった。

 爪先までピカピカにしてもらい、心地よさにうっとりする間もなく、先ほど選んだドレスに着替えるように指示される。
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