最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
「ドレスに合う小物も必要ね」

 お母さんは、しばらくなにかを考える素振り見せ、つぶやいた。

 それからドレスに合う靴とバッグ、アクセサリーを見繕い、続けてサロンでヘアセットとメイクをしてもらう流れになる。

 すべてが終わる頃には、昼はとっくに過ぎていて疲れがどっと押し寄せる。けれど鏡に映る自分の姿は普段からは想像もつかないほど飾り立てられ、まるで別人みたいだ。うれしいような、信じられないような。

 ラウンジでひと息 つくように提案され、すんなりとうなずいた。

 エステからはお母さんも一緒に施術した。お母さんが着用しているのはブルーシルバーのロングドレスだ。ボレロとセットになっていて、お母さんの体にぴったりとフィットし、総レースは高級感があふれている。

 首もとにはパールの三連ネックレスが輝き、厳格な雰囲気が漂っていた。

 向かい合って座り、緊張と格好も相まってあまり食べられそうにないとだけ告げ、オーダーはお母さんに任せる。とくに好き嫌いはないと以前に伝えてあるので、お母さんはハーブティーとチーズケーキのセットをふたつ注文した。

 ホテルのラウンジは午後なのもあり、それなりに混んでいるが高級ホテルでもあるので客層全体が富裕層であり、私たちの格好は浮くどころか馴染んでいる。

 ウェイターが下がったタイミングで私は再度お礼を口にする。

「あの、いろいろとありがとうございます」

「言ったでしょ、あなたは貴治の……二神不動産の次期社長の妻なんだから。中途半端な格好や真似をしてもらったら困るの」

 予想通りの答えだ。素直に「はい」と答え、うなずこうとした。
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