最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
「私も……姑にずっとそう言われてきたわ」

 ところがお母さんの続けられた言葉に、目を見開く。お母さんは持っていたカップをソーサーに置き、ふうっと息を吐いた。

「結婚した当初、二神不動産は義父が社長で、夫は今の貴治と同じ、副社長の立場だったの。夫とはお見合い結婚でお互いに納得して結婚したものの、姑は初対面で『二神不動産の社長夫人の立場は、あなたが思うような楽なものじゃないの。あなたには、荷が重すぎる』って怖い顔で断言してきたわ」

 ぶすっとした面持ちでお母さんは告げた。それは貴治さんの実家に挨拶に行った際にお母さんから浴びせられたものとまったく同じだ。

 反応に困っている私に対し、お母さんはひとり語っていく。

「夫は仕事ばかりで、家で食事をとることもあまりなかった。それでも姑には『次期社長の妻とは』って常に口を出され、認めてもらおうと、とにかく必死だったわ。貴治が生まれたときもそう。『この子は二神不動産の次期後継者なんだから、きちんと育てなさい』って。息子をかわいいと思う間もなく後継者を育てるプレッシャーに押しつぶされそうだった」

 そう話すお母さんの声にはいつもの刺々しさはなく、どこか寂しそうに見える。

「正しい道に導かないと。二神不動産の社長夫人の立場であり、次期後継者である貴治の母なんだからって。義両親が亡くなってからも、その考えは変えられずにずっと来たの」

 お母さんは視線を下げ、悲しげにつぶやいた。
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