最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
「だから反対したの。あの子も、あなたも苦労する。でも結局、私はあの姑と同じことをしているのよ。皮肉よね」

 お母さんが貴治さんと私との結婚を反対していたのは、ただ気に入らないという理由だったわけじゃないんだ。自分が苦労してきた経験があったからで……。

「もう今さらよ。夫との関係も、貴治との関係も。あの子にとって私は――」

「あの!」

 お母さんの言葉を遮り、つい口を挟んでしまった。でも、言わずにはいられない。

「今さら、なんてそんなこと絶対にありません。お母さんの気持ちや本音、よかったら貴治さんや二神社長に直接伝えてください。時間がかかっても、すれ違っても、まだ変われます」

 急に勢いよくまくし立てる私にお母さんは目を白黒させる。そこで我に返り、でしゃばりすぎたと身を縮めた。

「私はもう……できませんから。両親とも、祖母とも」

 記憶の中の母はおぼろげで、祖母からたまに話を聞いては自分とのつながりを探した。母と話したかった。聞きたいこともたくさんある。祖母も同じだ。どんなに願っても叶わない。

「……そうね」

 同意ではなく納得したようにお母さんが小さくつぶやいた。その表情は心なしか穏やかだ。しかしすぐにいつもの険しい顔で私を見つめてくる。

「ところで、気になっていたんだけれど、あなた指輪は? 普段から結婚指輪もしていないでしょ? まさか貴治、婚約指輪も用意してないの?」

 その指摘に顔が青ざめる。貴治さんは結婚する際に用意しようとしたが、私が断固拒否したのだ。期間限定の結婚で、どうせ別れるのに勿体ない。

 もともとアクセサリーをつける習慣はほぼないし、結婚を職場の人に知られるのも面倒だと思っていた。けれど、さすがにこういう場では必要になってくる。
< 77 / 134 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop