最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
「それは……」

 そこまで考えが及ばなかった私は、やっぱり貴治さんの妻として不相応だ。

「心配しなくても用意しています」

 そこに第三者の声が割って入る。タキシードを着ている貴治さんが、不機嫌そうな面持ちですぐそばにいた。私とお母さんの視線が自然と上を向く。

「臨は食品関係の会社で働いているので普段は結婚指輪をしていませんが、ちゃんと渡していますよ。今日は母さんが朝からそのままの格好で臨を呼び出したから、俺が代わりに持ってきました」

 辻褄の合う筋書きにホッとする。一方、お母さんは涼しげに言い放つ。

「あら、貴治。もう来たの? 早いじゃない」

「こちらはホストですから。社長が探していましたよ」

 その言葉に、お母さんは冷たく笑った。

「そう。妻が隣に立たないと格好がつかないからかしら?」

「いつも来客への細やかな対応は母さんがしているから、困っているみたいですよ。社長は口下手ですから、こういう場では毎回母さんに助けられていると話していました」

 続けられた内容に、お母さんは目を丸くする。それから視線を一度下げ、軽く咳払いをした。

「しょうがないわね。助けてあげましょうか」

 お母さんは優雅に立ち上がり、身長差のある貴治さんを見上げた。
< 78 / 134 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop