最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
「二神不動産の次期代表としてうまく立ち回りなさい。彼女のフォローもあなたがするのよ」

「ええ、わかっていますよ」

 やはり私の信用はないに等しいらしい。お母さんのようにとまではいかなくても、貴治さんの恥になるような真似は避けないと。

 あれ? でも恥にはならなくても多少は至らない方がいいのかな?

 その方が、彼と私が別れても皆、納得するだろう。

 ズキリと痛む胸を押さえ、立ち上がりお母さんに挨拶しようとした。

「臨さん」

 ところが、不意にお母さんに名前を呼ばれ、一瞬空耳を疑う。けれどお母さんは私を真っすぐに見つめた 。

「貴治のこと、よろしくね」

「は、はい」

 とっさに返事をしたものの動揺が隠せない。結婚して、お母さんに名前を呼ばれたのは初めてだ。

「あなたたちはもう少しゆっくりしていなさい。また後で」

 お母さんは颯爽と去っていき、お母さんが座っていた席に今度は貴治さんが腰を下ろす。空いたカップとお皿を下げながらウェイターが貴治さんに注文を取った。彼はコーヒーを頼み、お互いに向き合う。

「メッセージを読んだ。朝から、母さんに振り回されたんじゃないか?」

「いいえ。ドレスやアクセサリーなど全部、用意してもらいました。この格好はお母さんのおかげなんです」

 そう告げて、目線を下げ自分の姿を改めて確認する。まるで魔法だ。
< 79 / 134 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop