最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
「お母さん、私に任せていたら貴治さんの妻としてふさわしくない格好をするんじゃないかって心配だったんだと思います。貴治さんのためですよ」

 お母さんの気持ちが少しでも伝わればと、補足する。しかし彼の視線に耐えきれず、目を伏せがちになる。

「つまり臨は俺のために、こんなに綺麗に着飾ってくれたのか」

 そういう解釈で合っている……はずだ。

「はい。……これでいいでしょうか?」

 きちんと確認するべき事項なのかもしれないが、まともに貴治さんの顔が見られない。

「よく似合っている」

 顔を上げると、貴治さんが余裕たっぷりに微笑んでいる。

 貴治さんこそ、いつものスーツ姿とは違い、黒のタキシードにブラックタイの組み合わせはより上品で、なんともいえない貫禄が漂っている。すらりと背が高く、モデルと言っても信じられるほどだ。けれど、経営者としての威厳とでもいうのか、まとう雰囲気が周りとはあきらかに違う。

 隣に並ぶどころか、目が合うことさえないほど彼との世界の違いを実感する。

「指輪なんだが」

「あ、はい」

 彼は内ポケットからベルベット生地の指輪ケースを取り出した。

「時間があったし、臨の好みを聞いておくべきだったな」

「いいえ。私のことは気にしないでください」

 反射的に答えたものの慌てて口をつぐむ。ここはホテルのラウンジだ。ましてや私は彼と夫婦としてパーティーに参加するのだから、下手な発言は控えなければ。

 貴治さんは指輪ケースを開け、中をこちらに向けてきた。
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