最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
 指輪がふたつ並び、ひとつは大きな一粒ダイヤモンドが光り、もうひとつは、ゆるくウェーブのかかった細身のデザインにダイヤが埋め込まれて輝きを放っている。

 あまりの眩さに思わず見入ってしまう。

「臨、左手を」

 指摘され急いで左手を差し出したが、貴治さんに手を取られ、思わず引っ込めそうになる。しかし、指先をしっかり彼に掴まえられ、それは叶わなかった。

「遅くなって悪かった。俺と結婚して、いらない苦労をかけているが、いつも臨には感謝している。……これからも、そばにいてほしい」

 真面目に告げる貴治さんに面食らい、完全な不意打ち心臓が激しく脈打ちだす。

 これは演技だ。ホテルのラウンジで、周りに不審に思われないために、わざと普通のプロポーズを装っている、それだけだ。

 わかっているのに、触れられている指先が熱くて胸が苦しい。彼がこちらをうかがうので私はこくりとうなずいた。

「は、い。よろしくお願いします」

 消え入りそうな声で情けなく返事をする。

 結婚しているのに、これで合っているのかな? 別れるのが決まっているのに……。

 葛藤する私をよそに、貴治さんは丁寧に私の左手の薬指に指輪をはめていく。重ね付けするために結婚指輪、婚約指輪の順で私の薬指の指もとにふたつのリングは収まった。あまりにもぴったりで驚く。

「綺麗」

 柔らかいデザインと輝きに素直な感想が漏れた。

「気に入ったならよかった」

 左手の薬指に指輪をはめたのも初めてだが、経験したことがない重みに緊張してしまう。値段を聞く真似はしないが、私には勿体ないほどの代物なのは間違いない。
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