最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
 余計な口を挟まずに見守っていると、公子さんがコソリと声をかけてきた。

「それにしても、こんな場は退屈でしょう? 男の人たちは仕事の話ばかりなんだもの」

 理解しつつもわざと不満そうに告げる公子さんに苦笑する。

「奥さまは日本舞踊に精通されているとお聞きしました。今日の黒留袖も素敵ですね」

「ありがとう。でも精通だなんて、全然よ。好きで長く続けているだけなの」

 そこから公子さんは活き活きと習っている日本舞踊について話しだした。

「踊り用の着物の数もすっかり増えてしまってね。夫は普段着用している着物とどう違うんだ、同じように使えないのか、なんて言うのだけれど……」

「やはり違いますよね。私は古典柄が好きなのですが、踊り用の独特か華のあるお着物は踊りとも合わさって、見ていてとても楽しいです」

 日本舞踊の経験はないが、祖母が着物を着ている姿は何度も見た。

 おばあちゃんの着物、綺麗にしまっているはずだから、探してみよう。

「ずいぶん、楽しそうだね」

 公子さんと会話が弾んでいると、話が一段落した新庄社長に声をかけられる。

「ええ。臨さんとの話、とても楽しかったわ。臨さんも日本舞踊を始めたかったらいつでも連絡してね」

「こらこら、臨さんを困らせるなよ。それにしても、妻が日舞を習っていると、よく知ってたね」

 新庄社長に不思議そうに言われ、素直に答える。

「はい。貴治さんのお母さまから聞いておりました。とても素敵な奥さまなので、お会いするのが楽しみだったんです」

「ありがとう。私も今日、臨さんにお会いできてうれしいわ」

「さすが佐和子さん。お嫁さんへ社長夫人としてのアドバイスも抜かりないねぇ」

 新庄社長が感心したように言い。頭を下げる。すると貴治さんが、私の肩に手を置いた。
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