最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
「それもありますが、彼女自身が素直で勤勉なんです」

「そうよ! 臨さんと話して楽しかったのは、彼女自身が魅力的だからよ」

 貴治さんのフォローに目を瞠る。そこにすぐさま公子さんもかぶせてきて、新庄社長は気まずそうに頬をかいた。

「もちろん、臨さんが素晴らしい女性なのはわかっているよ。貴治くん、奥さんを大事にね」

「はい」

 再び少し雑談した後、新庄夫妻は去っていった。

 それからしばらく何人かの方に貴治さんの妻として紹介され挨拶し、流れが途切れたところで、ホッとひと息つく。

「臨、あともうひとり、挨拶しておきたい相手がいるんだ」

「わかりました」

 気合いを入れ直して、背筋を正す。貴治さんは、真っ直ぐに眼鏡をかけた老紳士に向かっていった。相手はこちらに気づくと、途端に顔を綻ばせる。

「貴治くん、もしかして彼女がそうなのかい?」

「はい。鎌田(かまだ)社長、こちらが妻の臨です」

 どうやら彼は、先に貴治さんから私についてなにかしら聞いていたらしい。頭を下げて挨拶をする。

「初めまして、臨と申します」

「臨、こちらは鎌田ホテルマネジメントの鎌田(いさお)代表」

 その名前で、貴治さんのお母さんからいただいた資料の内容を思い出す。

 鎌田ホテルマネジメントは、国内外に多くのホテルを運営し、ホスピタリティあふれる精神をモットーに、ここ数年では福祉関係への寄付や事業を展開していると評判だ。
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