最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
「初めまして、臨さん。このたびは結婚おめでとう。貴治くんにはお父さま共々お世話になっていてね」

 鎌田社長は、そこで少し声をひそめ、まるで内緒話をするかのように語る。

「実はね、臨さんのご実家土地の買取を希望したのはうちなんだ」

「え!?」

 思いがけない内容に、私の方が声が大きくなってしまった。慌てて口をつぐみ貴治さんを見ると、彼は目で肯定する。

「でも、まさか奥さんのご実家の土地だったとは。持ち主が亡くなったから売りに出されたと聞いていたんだが、いろいろ行き違いがあったようだね」

「鎌田社長、その節は大変申し訳ありませんでした」

 貴治さんが神妙な面持ちで告げたが、鎌田社長は笑みを崩さないままだ。

「謝らないでくれ。どうしてもってわけじゃなかったんだ。隣の区画整理された土地はうちが買い取ったから、計画通り、事業は進めるよ」

 私は迷いつつ尋ねる。

「どうして、あの場所にホテルを建てるおつもりなんですか?」

 周りにはなにもなく駅からも遠いし公共交通機関もお世辞にも十分に整ってはいない。

 私の質問の意図を読んだのか、鎌田社長が笑った。

「あそこは病院が近いから、患者の家族や付き添いの方が泊まれるのをメインとしたホテルを建てたくてね」

 ホテル、と聞いて想像した内容とまったく異なり、目を瞠る。
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