最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
「一時的に帰宅可能な患者さんが、たとえば実家が遠方だったり、バリアフリーの問題で難しかったりするときに家族と一緒に過ごせる場になるような、そういった活用もできたらと計画しているんだ。病院と連携して医師や看護師もできたら常駐させて。あそこの院長は高校の頃の同級生でね、さまざまな環境の患者さんがいると聞いたもので、なにかできないかと思ったんだよ」

 鎌田社長の目はキラキラとしている。ただ利益を追求するのではなく、純粋に自分の会社でできる社会貢献を形にしようとしているのだ。

 最初に私が聞いたときに想像していたホテルとは、まったく異なる。

「そう、なんですか……」

 祖母が入院したとき、病院から家が近いからほぼ毎日のように通えた。もしも遠い病院に入院となったら、どうなっていたんだろう。私はどんな気持ちだった?

「まだ企画計画段階なんだが、もし着工になったらご実家のすぐそばでしばらく迷惑をかけてしまうかもしれないが」

「そんなっ、迷惑なんてとんでもありません!」

 すぐさま否定すると鎌田社長は笑った。

「ありがとう。貴治くんも、本当に気にしないでおくれ。結婚おめでとう」

「ありがとうございます」

 鎌田社長の背中を見送り、私はなんとも言えない気持ちになる。貴治さんがあの土地を売るように直接家にやってきて交渉しようとしたのも、鎌田社長との関係や彼があの土地を買ってなにをしようとしていたか、知っているからだったんだ。

「あの、貴治さん――」

「貴治くん」

 貴治さんに尋ねようとすると、別のご夫婦に声をかけられる。思考を切り替え、また私は彼の結婚相手として挨拶をした。
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